リハビリテーション

5.自立と自律の違い

2018年6月23日

例えば病院内で「この患者さんはもう病棟内を一人で歩いて大丈夫」と医療スタッフチームより許可を下す場合,どのような基準で判断していますか?療法士の意見は非常に重要な基準となっていませんか?「なんとなく」では専門家として失格です.病院によっては一定の基準を設けている場合もあるでしょう.ここでは自立の判断基準,そして自律との違いについて述べていきます.

自立について

自立の意味を調べると

①他への従属から離れて独り立ちすること
②他からの支配を受けずに,存在すること
③支えるものがなく,そのものだけで立っていること

などがあります.自分の両足で立っているという身体機能面にとどまらず,発達段階や精神的な観点も含みます.小児医学や精神医学の観点も含め始めると,とんでもない内容量になり,また視点がブレてしまいそうだったため,このページで扱う自立は「病院内でのADL自立」などのように,身体機能面のことが主になります.発達や精神についてはいずれまたまとめていきます.

改めて例題です.

「脳梗塞後遺症の方がリハビリを頑張り,病棟内移動はT字杖で自立でいいのではないか」という議題が上がったとします.こんな時,理学療法士,作業療法士の意見は非常に重要です.

療法士は療法士は色々な評価をします.転倒などのリスクを判断する場合,理学療法士の関節可動域や筋力,平衡反応や立ち直り反応,保護進展反応,ステップがでるか,総合的なバランス評価,歩行分析などいろいろな評価が役に立ちます.作業療法士のトイレに行く時までの歩行,買い物袋を下げての歩行など応用的動作の評価が役に立つでしょう.注意機能などの高次脳機能評価も役に立つかもしれません.また看護師や介護職員からも実際の日常生活場面での評価,夜間の状態の評価などは非常に重要な情報です.

自立は一つの評価で簡単に判断できるものではないことがよくわかります.日頃からの評価の視点,情報共有などチーム連携をしっかりしておきましょう!……だけで終わるわけにはいきません.

自立を判断するときの視点として「動作の実用性」という考え方があります.それは

①安全性 ②安全性 ③耐久性 ④速度性 ⑤社会性 ⑥応用性

という視点です.一つ一つ説明します.

①安全性

そのままですが,動作が安全にできているかという視点です.安全の対義語は危険です.危険性がなくその動作を遂行できているかを評価します.

②安定性

これもそのままですが,動作の出来に波がなく,安定してできているかという視点になります.評価の時はみられているという緊張感もあり,しっかりと歩くことができている人でも,病棟に変えると気が抜け,転倒リスクが高まるというようでは,安定した動作とは言えません.

③耐久性

動作に耐久性があるかも非常に重要です.どんなに安全に安定して歩けても,「連続して10mしか歩けない」「1日1階しか歩くことができない」では,耐久性に問題があり,心肺機能や筋持久力などへのアプローチが必要になってくるでしょう.

④速度性

単純に動作スピードのことです.どんなに安全に安定して歩けても,「10m歩くのに10分かかります」では全く実用的とは言えません.耐久性などと併せて“効率性”といってもいいでしょう.いかに効率よく動作を遂行できているかという視点でもOKです.

⑤社会性

社会的に容認される方法かという視点になりますがこれだけは少し特殊です.例えば,麻痺の方独特の歩きをみて「しっかり歩けているじゃん」と感じたり,「あんな歩き方はカッコ悪い…」と感じる方もいるでしょう.これは見た目などに対する価値観の問題になります.これは療法士だけでなく,その患者さんの価値観も考慮しなければなりません.

⑥応用性

よく上の5つは取り上げられるのですが,私はここに応用性という視点を入れます.安定性とやや被る点もありますが,夜間はどうか,砂利道などの不整地ではどうか,そして応用できる余裕があるかなど時間帯や場面がかわっても同様のパフォーマンスが発揮できるかという視点です.私はここは非常に重要であると考えます.病院ではできていても,退院して家に帰ったとたんに動作ができなくなる方がいます.これは療法士に「家で生活することを想定したうえでの動作評価」という応用性の視点が足りなかったために発生します.応用性の評価には知識と経験と想像力が必要です.色々な場面,いろいろな生活環境,いろいろな価値観を想定しなければなりません.病院内だけでは狭すぎるのです.地域で働く今だからこそ,病院で働いていた頃の自分は視野が狭かったなとひしひしと感じます.

正直,院内での歩行自立などの判断は①安全性,②安定性さえできていればいいのではと思ってしまいます.しかし,在宅ではそうはいきません.それぞれの視点を持ち,何が足りていないか,なにがこの患者さん(利用者さん)にとって重要なのかを見極めていかねばなりません.

自律について

次に自立と自律の違いについてですが,これはよく「自律は自立の上位概念である」と勘違いをしている方が多くいますが,これは間違いです.簡単に言えば「自律は手段,自立は目的」です.これは精神医学や心理学などの観点も必要になって切るので,必要以上には掘り下げませんが,「自立という目的を達成するために自律する」という使い方になることを頭に入れておいてください.

自律はその漢字からもわかるように「自分を律する」と書きます.律するとは,ある基準に基づいて判断しそれに従うことです.自分で考えルールを選択し,それに従います.自分自身を自らがコントロールする,セルフコントロールです.患者さん(利用者さん)が自ら考え,必要性を理解し,運動が必要だというルールを決め,それに従っているでしょうか?我々療法士から提案・指示されたことを,しているだけではありませんか?

これはある営業マンの考え方ですが,「顧客は自らの意思で購入を選択した」と思い込ませることが必要なのだそうです.「言われるがままに買った」「押し売りされた」では顧客満足度は低く,「自分自身がいいと思ったから買った」場合,満足度は高いでしょう.なのでその営業マンは商品が売れても「ありがとうございました」と言わないのだそうです.むしろお客さんから「ありがとうございます」を引き出さなければならないのだとか.

我々療法士も,運動の必要性を押し付けていないでしょうか?相手に運動が必要だと思い込ませ,自ら選択できるように誘導するにはどうしたらよいでしょうか.地域に出るとよりその難しさを実感します.理論攻めや専門的な意見,紙媒体による説明,先に家族を巻き込んだり,堂々とした態度,自信のある表情,目線の合わせ方,あえて多くを語らなかったりとあの手この手を試しています.すべてにおいて誠実さが必要なのでしょうが,専門的なテクニックやスキルも必要だと感じています.

「自分で選択して商品を購入した」とはいえ、他人に影響されている時点で,自律という言葉の持つ意味と若干ニュアンスが異なるのかもしれません.しかし,自分の考えとはこれまで学んだものや経験したことからはじき出されるものです.その考えや経験に療法士の存在,提案や指導が一助となるように日々の臨床に取り組んでいきましょう.

話がそれてしまいましたが,療法士として患者さん(利用者さん)の自律を促し,自立を目指すことが療法士の本質的な存在意義であると考えています.

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