私は病院と在宅それぞれで働いてきましたが,それらの経験から病院と在宅の違いなどをまとめていこうかと思います.
それではいってみましょう!!
病院は治療の場,在宅は生活の場
当然ながら病院は治療の場,在宅は生活の場です.当たり前の話ですが,在宅の分野に転身すると,この言葉の意味や重みがズシッとのしかかってきます.
病院は治療の場であるため,患者さんが受診や入院になる場合のほとんどは,治療を希望しており,患者さんと病院スタッフの利害関係は一致しているといえます.入院していたとしても,治療に対し拒否がある患者さんや,治療の積極的でない方もいらっしゃると思いますが,そのような方は早期に退院へと導かれます.乱暴な言い方ですが,治療拒否がある方をずっと入院させておくわけにはいきません.病院も回転率を上げた方が儲かるからです.
しかし,拒否があったとしても,その理由を探り,関わる方法を変えたり,関わる人を変えたり,関わる時間を変えたり,家族からの説得を試みたりなど,あの手この手で病院側が必要と考える治療を行えるように努めなければなりません.これは,どこまで治療を強要するかという価値観の問題にもなってきます.
「別に体が良くならなくてもそれでいい」
「家に引きこもっているけど,自分は隠居のように,ただ着々と静かに死を迎えたいと思っている」
という方に,どこまでリハビリを強要しますか?
……強要という言い方があまりよくないですね.
どこまでリハビリの必要性を説明し,どこまでリハビリを実施しますか?
これは非常に悩みます.その人の人格や性格,生活歴,価値観,QOLなど,いわゆる“その人らしさ”みないなことをかなり考えなけれべならないかなです.きっとどれだけ経験を積んでも,このことは悩むのではないかと思います.更に,この葛藤は在宅リハの分野では如実に壁にぶつかります.
在宅は生活の場です.我々療法士は,利用者さんが生活している空間(家や施設)にあがらせていただき,治療をさせていただくという立場になります.患者や利用者という表現よりも,“顧客”に近い印象です.
リハビリを提供することで顧客満足度をあげる
必要があるのです.そのためには,スキル(技術)やノウハウ(知識)だけでなく,マインド(精神)や人間力といったところが重要になってくると考えています.
病院リハは診療報酬,在宅リハは介護報酬と診療報酬
病院で介護報酬を使用することはありません.病院の中は完全に診療報酬です.
例えば,在宅で生活している人が,介護報酬でヘルパーさんを利用し病院受診の付き添いをしてもらったとします.自宅と病院の移動に関しては介護報酬の保険を利用することができます.しかし,病院の中でヘルパーさんが付き添っている時間は介護報酬を使用することができません.病院の中は完全に診療報酬の世界だからです.
ではどうするのか?
答えは「自費契約(相対契約)」です.
ヘルパー事業所の規定にのっとり,利用者さんと「1時間いくら」と新たに契約を結びます.
このように病院は診療報酬ということが分かったと思います.病院でのリハビリも完全に診療報酬です.
それに対し,在宅でのリハビリは介護報酬も診療報酬もどちらも利用する可能性があります.
ここでは私が所属する訪問看護ステーションについて,診療報酬で対応する場合を紹介します.基本的には介護報酬が優先されますが,以下の条件を満たすと報酬報酬の対象となります.
①末期の癌やパーキンソン病や脊髄小脳変性症など国が指定している難病の方
②精神疾患をもっている方で,精神科医から精神科訪問看護指示書が発行された場合
③急性増悪や退院直後で医師より特別訪問看護指示書が発行された場合
このように在宅の分野では診療報酬,つまり医療保険で対応する場合があることがわかったと思います.詳しい内容についてはまた別の機会に述べて行きたいと思います.
病院リハは退院したら終わり,在宅リハはずっと続く
当然ながら病院を退院したら病院が提供するリハビリは終了となります.しかし,在宅ではそうはいかない場合が多いです.要支援や要介護の認定が下りていて,リハビリが必要ないという人は少ないからです.要支援や要介護の認定が下りていても,自身で定期的な運動を実施し,規則正しく生活を送り,自身をマネジメントできる人はそう多くはありません.その為、療法士が訪問し続ける場合が多いのです.
病院が運営する訪問リハビリテーション(訪問看護ステーションに所属する療法士とは異なる)は,退院後3か月などをめどにどんどん終了し,新規獲得をして回転率を上げることで利益を得ている場合が多い印象です.リハビリの必要性の価値観は人それぞれ異なるでしょうから,病院でも在宅でも自身が明確な理由をもってリハビリを提供していきましょう.
在宅は作業療法士の活躍の場と思ったら大間違い!?
よく急性期に近づけば近づくほど理学療法士が活躍し,慢性期に近づけば近づくほど作業療法士が活躍すると耳にします.そのため,在宅リハは作業療法士が活躍できる場であると確信していました.実際に在宅の場で仕事をすると少し見方が変わってきました.ポイントは以下の4つです.
①応用動作訓練は必要であるが,目的を持った運動療法であることが多い
②在宅ではある程度生活パターンやスタイルが出来上がっているので,多少改善の余地があっても毎回の介入でADL訓練を実施することは少ない
③在宅はADLやIADL,QOLの視点を持った理学療法士であれば,十分成り立つ領域
④むしろ,運動療法や簡単な物理療法が知識や技術がない作業療法士では活躍できない場合も!?
こう考えると,在宅領域での作業療法士の地位が危ぶまれているように思います.理学療法士との差別化を図り,在宅で作業療法を活かすにはどうするべきかをずっと悩んでいました.現段階で考えうる結論は「圧倒的に広い評価の視点と精神疾患への対応」です.
作業療法士はADLやIADLについてとにかく広い視点を持つべきです.その人の生活は,その人に関わる誰よりも知っておくべきです.非常に大変ですが,そうすることで本当に必要な訓練がみえてきますし,その人らしさやQOLの考察にもつながります.
また,精神的な疾患への対応は作業療法士のみの特権です.訪問看護では精神科訪問看護指示書(精神科医もしくは心療内科医が発行)で理学療法士が訪問することはできません.その為、精神疾患の評価や治療を磨くことも理学療法士との差別化を図ることに繋がります.
まとめ
私は訪問看護ステーションで勤務するまで地域のことは全くわかっていませんでした.病院から退院後の情報も入ってくることが少なく,自分が実施したリハビリが正しく在宅で活かされているのかさえ知りませんでした.現在は退院後訪問に点数がつくなどの整備が徐々に進んではいますが,まだまた病院と地域の差は大きいように感じます.お互いに理解を深め合うことで,より一層の社会貢献につながるのではと考えています.
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